Mastering Waves at Pro Tour Theros
2013年10月19日 TCG全般 コメント (2)http://magic.tcgplayer.com/db/article.asp?ID=11440
※既にMelissaがトーナメントの結果と我々の調整録について記事にまとめてくれているので、もしかしたら内容が重複しているかもしれません。この記事は補足としてお読みください。MtG以外の内容も含まれているので、きっとお楽しみいただけると思います。
かつてフランスは最もMtGが強い国の一つで、大規模な大会には必ずTop8にプレーヤーを輩出していました。その中には殿堂入りした者、世界王者、グランプリ優勝者、プロツアー優勝者もいます。世界最強の国について話題になれば、そこには日本、アメリカ、ドイツ、そしてフランスの名前が登場していました。
ストラスブールで、Nathan Holtから最近のフランスにおけるMtGについて質問を受けました。ここ数年、我々はプロツアーのTop 8にほとんどプレーヤーを送り出してきませんでした。グランプリも同じく不調が続き、特にフランスで開催されたグランプリ(フォーマット:レガシー)なのにTop 8に一人もフランス人がいないなんてこともあったのです。
しかし私は彼に、もうすぐ時代が変わること、我々が強力なチームを作り上げたこと、フランスが再び強国へと甦るであろうことを伝えました。
先日の世界選手権の結果はまさにフランス再興ののろしとなるものです。この再興劇を我々は「Revolution」と名付けました。
チーム自体はもともとプロツアーギルド門侵犯のために、参加権利を持っていたフランス人のほとんどが集結して結成されたものです。メンバーはPierre Dagen、Jeremy Dezani、Timothée Simonot、Guillaume Wafo-Tapa、フランスでのPTQの突破者、Melissa DeTora、そしてチームリーダーのJames Searlesです。チームからMelissaをTop 8に送り出すことに成功し、もっと上位の成績も狙えるだろうと手ごたえを感じていました。
プロツアードラゴンの迷路では残念ながら好成績を収めることは出来ませんでした。この期間に、Roberto GonzalesとRaymond Veenisがチームに加入しました。チームの何人かがマネーフィニッシュこそできましたが、もともとチームに緊張感が欠けていたことと連携が機能していなかったことが原因で、大会前にベストな調整環境が用意できていたとは言い難い状況でした。
我々はこの失敗から多くの教訓を学びました。そういう背景があって、今回のプロツアーテーロス(ちなみに私にとって80回目のプロツアーです)に至ります。今大会にあたってWMCメンバーでもあるStephane Soubrier とYann Guthmannの他、Costa Rican、Miguel Gatica、プロツアードラゴンの迷路でTop 8に入賞したRob Castellonとその兄弟のMikeらがチームに加入しました。前回のプロツアーを欠席したWafo-Tapaも戻ってきました。
9月27日に、友人でもありMtGの最初のライバルでもあるMatthieu Poujadの結婚式に出席するため、私はアイルランドに向かいました。彼はフランスのDCIマネージャーとして活動していたこともあるので、もしかしたら彼の名前を耳にしたことがある方がいるかもしれません。式が終わった後、ダブリンに移動してチームに合流しました。今回、滞在用のホテルを手配してくれたのはJamesです。ホテル自体は洒落っ気のないものでしたが、デッキの調整とドラフトの練習をするには十分でしたし、インターネットへの接続も難なくできました。
(以下滞在記が続くが興味ないので省略)
…と、まあ余談はこの辺にして、調整を開始した初日からの話題に戻ろうと思います。我々が立てたプランは明快で、ドラフトを繰り返すとともにフォーマットの理解に努めることです。幸い我々のチームには優秀な頭脳の持ち主がたくさんいて、実際に対戦を行って環境を読み解くに十分な人員がいます。まずじっくり時間をかけて環境のアグロデッキを洗い出し、アグロデッキ・ミッドレンジ・エスパーコントロールを倒すための戦略を考えました。そして赤緑アグロが頭一つ抜けていそうだという結論に達しました。しかし同時に、このデッキのマナベースに嫌気がさしていました。5枚の《山》と《カロニアの大牙獣》が共存するデッキが素晴らしいとは思えません。その数日後、Jeremy Dezaniが、Antoine Ruelから情報提供されたという青単信心デッキの存在を教えてくれたのです。メインボードから搭載された《潮縛りの魔道士》の前に、我々が用意した緑系アグロデッキは手も足も出ませんでした。しかしその青単を使ってエスパーコントロールと対戦してみましたが、今度は青単側が完敗する結果となったのです。
我々は黒をタッチして《思考囲い》と《強迫》を加えてみました。しかし私はもともとデッキのマナベースが歪んで勝率が落ちるということで、2色目を加えることに反対だったのです。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、私は単色デッキの大ファンなんですよ。ちなみにAntoine Ruelは、プロツアーでは黒をタッチした2色バージョンのデッキを使っていて、成績は39位でした。サイドボードについてもあれこれ検討してみましたが、なかなかうまくいかないものです。最終的に我々は、メインボードに《思考を築く者、ジェイス》を数枚入れ、サイドボードに追加の《思考を築く者、ジェイス》と、《記憶の熟達者、ジェイス》、《霊異種》、そして《否認》を用意することでエスパーコントロールとの相性を改善することができました。
青単デッキをサイド後からガンメタするような緑系デッキを試したこともあります。しかし《霧裂きのハイドラ》や《闘技》など13枚のカードを入れ替えてみても、勝率は5割がいいところでした。他に何かないかとあれこれ検討してみましたが、どれも失敗に終わりました。青単はエスパーに有利なアグロ系デッキを食い物にすることができ、多少のことではその勢いを止めることは不可能です。我々は結局、対エスパー戦はサイド後からが本番だというつもりで臨むことにしました。
これが実際にトーナメントで使用したデッキリストです。Melissaが使用したものと75枚同じリストです。
4 《雲ヒレの猛禽》
4 《審判官の使い魔》
4 《凍結燃焼の奇魔》
4 《潮縛りの魔道士》
2 《前兆語り》
4 《夜帷の死霊》
4 《海の神、タッサ》
4 《波使い》
2 《思考を築く者、ジェイス》
1 《タッサの二叉槍》
2 《サイクロンの裂け目》
1 《急速混成》
21 《島》
3 《変わり谷》
2 《霊異種》
2 《思考を築く者、ジェイス》
1 《変わり谷》
3 《否認》
1 《真髄の針》
2 《漸増爆弾》
1 《トリトンの戦術》
3 《霜の壁》
・クリーチャー
4 《雲ヒレの猛禽》
4 《審判官の使い魔》
4 《凍結燃焼の奇魔》
4 《潮縛りの魔道士》
2 《前兆語り》
4 《夜帷の死霊》
4 《海の神、タッサ》
4 《波使い》
このデッキは様々なクリーチャーを使って勝利を目指します。
1マナ域(《雲ヒレの猛禽》、《審判官の使い魔》)は後続のために信心を稼ぎながら、最初にライフを攻めに行くためのカードです。《雲ヒレの猛禽》は割と簡単に2/3や3/4といったサイズに成長し、サイド後には《霜の壁》のおかげでそれ以上に巨大化することもあります。Wafo-Tapaは1マナ域のカードを全部排して黒い除去呪文を追加し、よりコントロール寄りのデッキにするべきだと主張しましたが、デッキの安定性を重視してそのままにしました。しかし正直なところ、Wafo-Tapaが言うような青黒バージョンのデッキを十分に調整する時間がなかったというのも理由の一つです。
2マナ域(《凍結燃焼の奇魔》、《潮縛りの魔道士》、《前兆語り》)は緑系デッキへの耐性を高めながら、コントロールデッキに対しプレッシャーをかける存在です。《凍結燃焼の奇魔》は攻撃して4点のダメージを稼ぐという素晴らしい仕事ぶりを見せてくれます。
《夜帷の死霊》は《海の神、タッサ》が要求する信心を1枚でほとんど満たしてしまい、《波使い》で3体のトークンを生み出す源になることから、まさにキーカードと呼べる存在です。相手のデッキからカードを奪う能力は決して無駄ではなく、そのおかげで4枚目の土地にアクセスしやすくなります。
《海の神、タッサ》と《波使い》はこのデッキの根幹にあたる部分です。《海の神、タッサ》をクリーチャーにしてブロック不可の5/5にするか、《波使い》で大量の2/1トークンをばら撒くかして、優位な情勢を築き上げます。
・呪文
2 《思考を築く者、ジェイス》
1 《タッサの二叉槍》
2 《サイクロンの裂け目》
1 《急速混成》
このデッキに必要なバウンス呪文はどれが最適か、という問題には悩まされました。最初はデッキのキーパーツを探しに行けるという点から《航海の終わり》を使っていました。このカードは相手の除去呪文に対応してこちらのクリーチャーを救出できますが、《拘留の宝球》などクリーチャー以外のパーマネントに触れないことが問題となりました。次に試したのは《分散》です。しかし調整が進むにつれ、バウンスするパーマネントはほとんど対戦相手の物だということに気づきました。そうなれば上位互換となる《サイクロンの裂け目》の方が優先されます。このカードを超過で唱えれば、場をリセットしてゲームを仕切り直したり、複数の《拘留の宝球》をバウンスして奇襲を仕掛けることもできます。
最初はバウンス呪文を4枚デッキに入れていましたが、1枚を抜いて代わりに《急速混成》にしました。バウンス呪文では《世界を喰らう者、ポルクラノス》に対して一時的な回避手段にしかなりません。この伝説のハイドラは、大体あなたが《波使い》を唱える時まで怪物化することはないでしょう。怪物化に対応して除去すればダメージを与えられないのでエレメンタルトークンは戦場に残り続けます。《急速混成》であれば、《世界を喰らう者、ポルクラノス》を永続的に対処できるのです。また覚えておいてほしいのは、このカードが緊急時のブロッククリーチャーを用意できること、その色は緑であることです。これは緑系のデッキが《霧裂きのハイドラ》を使ってきたときに特に有効です。《海の神、タッサ》を対象に打ち込んで、クリーチャーの数を減らすことなく3/3を追加することもできます。
4マナ域にどのカードを配置すべきかも議論を重ねました。私個人としては《タッサの二叉槍》は使いたくありませんでした。このカードはエスパー相手に限定された局面でしか強くなく、しかし時として、それ1枚でゲームに勝てるということもあります。UUという信心を供給すること、除去が困難なこと(←特に重要です)は素晴らしいですが、2枚目を引いてしまった時の弱さは半端ないものです。その点、《思考を築く者、ジェイス》はより簡単に対処されてしまいますが、ゲームに与える影響という点では軍配が上がります。エスパーとのマッチアップではサイドボード後に《思考を築く者、ジェイス》を4枚積みたかったので、スペースの都合の問題から《タッサの二叉槍》を減らしてメインボードに2枚《思考を築く者、ジェイス》を入れることにしたのです。
・土地
21《島》
3《変わり谷》
我々が単色にこだわったのはデッキを安定化させ一貫性のあるものにするためです。2色土地を見るたび、我々はこの問題に悩まされます(少なくとも私はそうです)。エスパーとの対戦を考えると是非とも《変わり谷》は入れておきたいところですが、一体何枚入れればよいのかなかなか決まりませんでした。3枚か、それとも4枚か。このデッキは青マナの要求が激しく、初手に無色マナしかないという事態は避けたかったので、メインボードは3枚だけ入れて1枚をサイドに落とすことにしました。
《ニクスの祭殿、ニクソス》を使わなかったのは、このカードの必要性を全く感じなかったためです。青単デッキというものはUUUUが用意できればもう十分で、それ以上の青マナを何のために使うのかわからなかったのです。《海の神、タッサ》で自軍のクリーチャーを全てブロックされなくする、という動きをとりたい時もありますが、それはミラーマッチの時のみに有効と考えていて、そして我々はミラーマッチに遭遇することがほとんどないと予想していたのです。
ところでひとつ疑問なのは、誰もインターネット上でこのデッキについて考察していなかったことです。何度か議論になりかけたことはありましたが、著名なプレーヤーが青単デッキの考察記事を公開することはありませんでした。本当のところ、我々も当初はこのデッキを馬鹿にしていたのですけれどね…
【サイドボーディングについて】
・対赤単
+2《漸増爆弾》、+2《思考を築く者、ジェイス》、+1《トリトンの戦術》
-1《タッサの二叉槍》、-2《サイクロンの裂け目》、-1《急速混成》、-1《海の神、タッサ》
対赤単戦は非常に楽なマッチアップです。あなたのクリーチャーがどれも脅威となるからです。特に《凍結燃焼の奇魔》と《前兆語り》は、防御に回って相手の攻撃を受け止めるには十分なタフネスを備えています。サイド後は《漸増爆弾》を追加することでもっと楽に立ち回れるようになります。《トリトンの戦術》を使って《潮縛りの魔道士》を除去から守ることで、相手の計算を狂わせることもできます。
・対グルール
+3《霜の壁》、+1《真髄の針》、+1《トリトンの戦術》
-1《タッサの二叉槍》、-4《審判官の使い魔》
赤緑デッキにとって《波使い》を対処できるカードは、《世界を喰らう者、ポルクラノス》と《ミジウムの迫撃砲》しかありません。《霜の壁》は巨大な壁となってグルールの怪物の前に立ち塞がり、ゲームを長期化させる手助けとなることでしょう。《真髄の針》は《世界を喰らう者、ポルクラノス》や《ドムリ・ラーデ》を封じ、《トリトンの戦術》は《世界を喰らう者、ポルクラノス》から《波使い》を守ってくれます。
・対セレズニア
+3《霜の壁》、+2《漸増爆弾》
-1《タッサの二叉槍》、-2《思考を築く者、ジェイス》、-2《前兆語り》
これもまた《森》が入っているデッキの例外に漏れずとても簡単なマッチアップで、もしかすると最も倒しやすい相手かもしれません。《潮縛りの魔道士》を除去される心配がないからです。《海の神、タッサ》を除去できる《セレズニアの魔除け》を抱えてはいますが、逆に言うとそれだけしかセレズニアが有利な点はありません。サイド後は《霜の壁》が《ロクソドンの強打者》、《羊毛鬣のライオン》、ワームトークンの攻撃を受け止め、《漸増爆弾》がワームトークンの居住を防ぐとともに《霜裂きのハイドラ》への回答となるでしょう。カウンターを1つ乗せておくだけで、たとえ10/10のハイドラであっても破壊できます。
・対エスパーコントロール
+2《霊異種》、+3《否認》、+1《真髄の針》、+2《思考を築く者、ジェイス》、+1《変わり谷》
-4《雲ヒレの猛禽》、-2《前兆語り》、-2《波使い》、-1《急速混成》
エスパーとの試合は難しい展開になるでしょう。前述の通り、適切なサイドボードプランの発見のために我々は苦労しました。サイド後は《思考を築く者、ジェイス》が4枚になる分デッキ全体はやや重くなります。《スフィンクスの啓示》など重要な呪文を打ち消せるように《否認》を入れ、追加の土地として4枚目の《変わり谷》も入れます。
《霊異種》は、デッキに入れるべきかどうかでチーム内で最も揉めたカードです。Pierreはこのカードを、今回のデッキで運用するには重過ぎて唱えられないだろうと考えていました。私は彼に、それは違うだろうと反論しました。なぜなら、対エスパー戦ではどうしてもゲームは長期化しやすく、5枚目以降の土地を死に札にさせない必要があると危惧していたからです。またサイド後には《思考を築く者、ジェイス》と《変わり谷》が追加されるというのも、反論した理由の一つです。
結局Pierreは《記憶の熟達者、ジェイス》を代わりに採用することにしました。チームの中でも何枚が適正枚数かで意見が割れていて、1枚にとどめる者がいる一方で、私とJeremy、Melissa、Yann、そしてMiguelのように、2枚にした者もいました。もしかしたら他にもいたかもしれませんが、全員の最終リストを全部覚えていないのでわかりません。
《霊異種》が対オロスコントロールなどの中速デッキを相手にしたときにものすごく強いことから、私はこのカードを心底気に入りました。オロスコントロールとの試合では除去呪文が降り注ぐために《海の神、タッサ》で攻撃できる機会がなく、非常に不利なマッチアップです。《破滅の刃》、《岩への繋ぎ止め》、《神々の憤怒》で《波使い》が対処され、《先導者のらせん》は《夜帷の死霊》を撃墜し、これらのためにオロス側が圧倒的な優位に立つでしょう。その間にも《ボロスの反抗者》を始めとした軍勢があなたを攻撃し続け、しかもそれらを迎撃することは非常に困難です。
私の3つの負けのうち2つはオロスコントロールとの試合でした。PierreはTop 8に残る過程で何回かこのマッチに勝利したと言っていますが、私にはどうすれば勝てるのか全く分かりません。おそらく1マナ域のクリーチャーを全部抜いて《思考を築く者、ジェイス》や《霊異種》などをサイドインし、コントロールプランにシフトすることになるのでしょうが。もう一つの負けはUri Pelegとの試合で、彼はエスパーを使っていました。彼と全く同じリストを使っているWafo-Tapaと、プロツアー前にあれだけ練習したのに…(´・ω・`)
LouisとWafo-Tapaはエスパーを、Robはセレズニアをそれぞれ選択し、他は全員が青単信心デッキに決めました。ここまで多くのメンバーが同じデッキを共有することは非常に稀です。我々は一つの大仕事を成し遂げ、今回の結果に大満足しています。13人のメンバーのうち12人が2日目に進出し、7人がマネーフィニッシュして、3人がTop 8に残ったのですから。
ところでGuillaume Wafo-Tapaについて、ここで言っておかなければならないことがあります。
1) Wafo-Tapaはエスパーを選択しましたが、彼は決して他のデッキを使おうとはしませんでした。ダブリンに滞在している間に、彼にこう尋ねたことを覚えています。
「すまないが今回は、君のデッキの調整に時間を割けそうもないよ(だってLouis以外の全員が、エスパーを選択する気がなかったのですから)。ところで君はどうして他のデッキを使おうとしないんだい?」
彼の回答は非常に興味深いものでした。
「エスパーというデッキは環境への適合と、正解を見つけ出す作業そのものなんだよ。きっとプロツアーの直前まで正解に辿り着くことはできないだろう。しかしたとえ不本意であっても、君達が僕に付き合ってくれたなら、その時こそパーフェクトなエスパーに辿り着くことができるはずだ」
2) 調整中に出た結論を再考するというのは奇妙なものです。調整の過程で、《タッサの二叉槍》がほとんどのマッチアップにおいて苛立たしさをおぼえるようなカードであることは明白でした。実際、エスパー以外の相手には必ずサイドアウトしていました。チームメンバーのほとんどがそれを1枚に減らしていましたが、Pierreだけは2枚目を残していました。準々決勝の時、Wafo-Tapaが唱えた《思考囲い》によって、Pierreは次のような手札を公開したのです。
2《夜帷の死霊》 2《タッサの二叉槍》 2《島》
この中からWafo-Tapaは《夜帷の死霊》を抜き取ったのですが、結論から言うと彼は《タッサの二叉槍》のためにこのゲームを落とすことになるのです。試合後にWafo-Tapaは、《タッサの二叉槍》を捨てさせるべきだったと後悔していました。この時私は己の過ちに気づかされました。調整中ずっと《タッサの二叉槍》が弱い状況ばかりを私が想定していたことが影響し、Wafo-Tapa もまた《タッサの二叉槍》をPierreの手札に残す選択をしてしまったのでしょう。事実、彼もそうだと認めました。
3) プロツアーが終わった後のパーティーで、Wafo-Tapaのことを褒めていたPatrick Chapinと話す機会がありました。彼曰くWafo-Tapaはアーティストで、使っていたエスパーデッキは環境のマスターピースだったそうです。彼は今回で通算5回目のプロツアーTop 8入賞を達成しましたが、その一方で彼は数年前にある大きな過ちを犯しています。今年から彼も殿堂候補者の資格を得ることになったので、彼が選出されるよう私はロビー活動に全力で励むつもりです。
ところで先程の会話の中で、Chapinはこうも言っていました。
「おかしいとは思わないか?Nassifはフランス人だが、チームSCGの一員であって青単を選択し、そして同じくフランス人の君のデッキも同じように青単だった」
彼はつまり、私がNassifから情報を提供されたのではないかと疑っていたわけです。そこで私はこう返しました。
「君こそおかしいと思わないのか?君達のチームは青単デッキに辿り着いていたわけだけど、俺達のチームメイトであるWafo-Tapaを君は贔屓にしているんだぜ?」
実際のところSCGと我々の間に接点はなかったのですが、異なるチームがほとんど同じデッキリストに辿り着くなんて何てクールな話なんでしょう。
同じデッキを使ったチームメイトがワンツーフィニッシュする一方で、私は40位という、決して好成績とは言えない結果に甘んじたわけですが、後悔はありません。デッキ調整の間もJeremyとPierreは非常に熱心に練習していましたし、ドラフトの成績も素晴らしいものでしたので、今回の結果も驚くほどではないのです。
今回の結果には非常に満足していますし、JeremyとPierreのことをまだまだ祝福し足りないぐらいです。
果たしてトーナメントの期間中にPierreの役に立ったかは分かりませんが、実は彼にはあるものを渡していました。私はMtGの大会に参加するときは、気に入る音楽や、やる気を出させてくれる音楽、迷った時に道しるべとなってくれるような音楽を探すようにしています。隣席のプレーヤー、アナウンス、対戦相手の遅いプレイなど、試合中に集中を乱す要素はたくさんあります。そんな時は私は音楽を念仏のように聞いて、意識をゲームへと引き戻し、頭の中で歌を歌い続けます。いつでもできる、とても簡単な頭の体操にもなりますよ。
出発の数日前、私はある柔術の大会の再放送で、(私が大好きな)ロッキーシリーズに出てくる歌のような音楽が流れているのを耳にしました。その曲を調べたところ、Stalloneの出演作である「Over the Top」のサントラであることが分かりました。Sammy Hagarの「Winner Takes It All」です。どうして今までの人生で私はこの曲と出会えなかったのでしょうか!?実にすばらしい曲で、聴いているだけで試合に勝てそうな気がしてきます。私はこの80年代の名曲をPierre Dagenにも教えてあげました。そして彼は、プロツアーの舞台でまさにこの歌そのものになったのです。
これで今回の記事はおしまいです。
このプロツアーのためにカードをお貸し頂いたCardhausには大変感謝しています。
次回お会いする舞台はグランプリ・アントウェルペン、フォーマットは(私の大嫌いな)モダンです。
See you next time!
※既にMelissaがトーナメントの結果と我々の調整録について記事にまとめてくれているので、もしかしたら内容が重複しているかもしれません。この記事は補足としてお読みください。MtG以外の内容も含まれているので、きっとお楽しみいただけると思います。
かつてフランスは最もMtGが強い国の一つで、大規模な大会には必ずTop8にプレーヤーを輩出していました。その中には殿堂入りした者、世界王者、グランプリ優勝者、プロツアー優勝者もいます。世界最強の国について話題になれば、そこには日本、アメリカ、ドイツ、そしてフランスの名前が登場していました。
ストラスブールで、Nathan Holtから最近のフランスにおけるMtGについて質問を受けました。ここ数年、我々はプロツアーのTop 8にほとんどプレーヤーを送り出してきませんでした。グランプリも同じく不調が続き、特にフランスで開催されたグランプリ(フォーマット:レガシー)なのにTop 8に一人もフランス人がいないなんてこともあったのです。
しかし私は彼に、もうすぐ時代が変わること、我々が強力なチームを作り上げたこと、フランスが再び強国へと甦るであろうことを伝えました。
先日の世界選手権の結果はまさにフランス再興ののろしとなるものです。この再興劇を我々は「Revolution」と名付けました。
チーム自体はもともとプロツアーギルド門侵犯のために、参加権利を持っていたフランス人のほとんどが集結して結成されたものです。メンバーはPierre Dagen、Jeremy Dezani、Timothée Simonot、Guillaume Wafo-Tapa、フランスでのPTQの突破者、Melissa DeTora、そしてチームリーダーのJames Searlesです。チームからMelissaをTop 8に送り出すことに成功し、もっと上位の成績も狙えるだろうと手ごたえを感じていました。
プロツアードラゴンの迷路では残念ながら好成績を収めることは出来ませんでした。この期間に、Roberto GonzalesとRaymond Veenisがチームに加入しました。チームの何人かがマネーフィニッシュこそできましたが、もともとチームに緊張感が欠けていたことと連携が機能していなかったことが原因で、大会前にベストな調整環境が用意できていたとは言い難い状況でした。
我々はこの失敗から多くの教訓を学びました。そういう背景があって、今回のプロツアーテーロス(ちなみに私にとって80回目のプロツアーです)に至ります。今大会にあたってWMCメンバーでもあるStephane Soubrier とYann Guthmannの他、Costa Rican、Miguel Gatica、プロツアードラゴンの迷路でTop 8に入賞したRob Castellonとその兄弟のMikeらがチームに加入しました。前回のプロツアーを欠席したWafo-Tapaも戻ってきました。
9月27日に、友人でもありMtGの最初のライバルでもあるMatthieu Poujadの結婚式に出席するため、私はアイルランドに向かいました。彼はフランスのDCIマネージャーとして活動していたこともあるので、もしかしたら彼の名前を耳にしたことがある方がいるかもしれません。式が終わった後、ダブリンに移動してチームに合流しました。今回、滞在用のホテルを手配してくれたのはJamesです。ホテル自体は洒落っ気のないものでしたが、デッキの調整とドラフトの練習をするには十分でしたし、インターネットへの接続も難なくできました。
(以下滞在記が続くが興味ないので省略)
…と、まあ余談はこの辺にして、調整を開始した初日からの話題に戻ろうと思います。我々が立てたプランは明快で、ドラフトを繰り返すとともにフォーマットの理解に努めることです。幸い我々のチームには優秀な頭脳の持ち主がたくさんいて、実際に対戦を行って環境を読み解くに十分な人員がいます。まずじっくり時間をかけて環境のアグロデッキを洗い出し、アグロデッキ・ミッドレンジ・エスパーコントロールを倒すための戦略を考えました。そして赤緑アグロが頭一つ抜けていそうだという結論に達しました。しかし同時に、このデッキのマナベースに嫌気がさしていました。5枚の《山》と《カロニアの大牙獣》が共存するデッキが素晴らしいとは思えません。その数日後、Jeremy Dezaniが、Antoine Ruelから情報提供されたという青単信心デッキの存在を教えてくれたのです。メインボードから搭載された《潮縛りの魔道士》の前に、我々が用意した緑系アグロデッキは手も足も出ませんでした。しかしその青単を使ってエスパーコントロールと対戦してみましたが、今度は青単側が完敗する結果となったのです。
我々は黒をタッチして《思考囲い》と《強迫》を加えてみました。しかし私はもともとデッキのマナベースが歪んで勝率が落ちるということで、2色目を加えることに反対だったのです。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、私は単色デッキの大ファンなんですよ。ちなみにAntoine Ruelは、プロツアーでは黒をタッチした2色バージョンのデッキを使っていて、成績は39位でした。サイドボードについてもあれこれ検討してみましたが、なかなかうまくいかないものです。最終的に我々は、メインボードに《思考を築く者、ジェイス》を数枚入れ、サイドボードに追加の《思考を築く者、ジェイス》と、《記憶の熟達者、ジェイス》、《霊異種》、そして《否認》を用意することでエスパーコントロールとの相性を改善することができました。
青単デッキをサイド後からガンメタするような緑系デッキを試したこともあります。しかし《霧裂きのハイドラ》や《闘技》など13枚のカードを入れ替えてみても、勝率は5割がいいところでした。他に何かないかとあれこれ検討してみましたが、どれも失敗に終わりました。青単はエスパーに有利なアグロ系デッキを食い物にすることができ、多少のことではその勢いを止めることは不可能です。我々は結局、対エスパー戦はサイド後からが本番だというつもりで臨むことにしました。
これが実際にトーナメントで使用したデッキリストです。Melissaが使用したものと75枚同じリストです。
4 《雲ヒレの猛禽》
4 《審判官の使い魔》
4 《凍結燃焼の奇魔》
4 《潮縛りの魔道士》
2 《前兆語り》
4 《夜帷の死霊》
4 《海の神、タッサ》
4 《波使い》
2 《思考を築く者、ジェイス》
1 《タッサの二叉槍》
2 《サイクロンの裂け目》
1 《急速混成》
21 《島》
3 《変わり谷》
2 《霊異種》
2 《思考を築く者、ジェイス》
1 《変わり谷》
3 《否認》
1 《真髄の針》
2 《漸増爆弾》
1 《トリトンの戦術》
3 《霜の壁》
・クリーチャー
4 《雲ヒレの猛禽》
4 《審判官の使い魔》
4 《凍結燃焼の奇魔》
4 《潮縛りの魔道士》
2 《前兆語り》
4 《夜帷の死霊》
4 《海の神、タッサ》
4 《波使い》
このデッキは様々なクリーチャーを使って勝利を目指します。
1マナ域(《雲ヒレの猛禽》、《審判官の使い魔》)は後続のために信心を稼ぎながら、最初にライフを攻めに行くためのカードです。《雲ヒレの猛禽》は割と簡単に2/3や3/4といったサイズに成長し、サイド後には《霜の壁》のおかげでそれ以上に巨大化することもあります。Wafo-Tapaは1マナ域のカードを全部排して黒い除去呪文を追加し、よりコントロール寄りのデッキにするべきだと主張しましたが、デッキの安定性を重視してそのままにしました。しかし正直なところ、Wafo-Tapaが言うような青黒バージョンのデッキを十分に調整する時間がなかったというのも理由の一つです。
2マナ域(《凍結燃焼の奇魔》、《潮縛りの魔道士》、《前兆語り》)は緑系デッキへの耐性を高めながら、コントロールデッキに対しプレッシャーをかける存在です。《凍結燃焼の奇魔》は攻撃して4点のダメージを稼ぐという素晴らしい仕事ぶりを見せてくれます。
《夜帷の死霊》は《海の神、タッサ》が要求する信心を1枚でほとんど満たしてしまい、《波使い》で3体のトークンを生み出す源になることから、まさにキーカードと呼べる存在です。相手のデッキからカードを奪う能力は決して無駄ではなく、そのおかげで4枚目の土地にアクセスしやすくなります。
《海の神、タッサ》と《波使い》はこのデッキの根幹にあたる部分です。《海の神、タッサ》をクリーチャーにしてブロック不可の5/5にするか、《波使い》で大量の2/1トークンをばら撒くかして、優位な情勢を築き上げます。
・呪文
2 《思考を築く者、ジェイス》
1 《タッサの二叉槍》
2 《サイクロンの裂け目》
1 《急速混成》
このデッキに必要なバウンス呪文はどれが最適か、という問題には悩まされました。最初はデッキのキーパーツを探しに行けるという点から《航海の終わり》を使っていました。このカードは相手の除去呪文に対応してこちらのクリーチャーを救出できますが、《拘留の宝球》などクリーチャー以外のパーマネントに触れないことが問題となりました。次に試したのは《分散》です。しかし調整が進むにつれ、バウンスするパーマネントはほとんど対戦相手の物だということに気づきました。そうなれば上位互換となる《サイクロンの裂け目》の方が優先されます。このカードを超過で唱えれば、場をリセットしてゲームを仕切り直したり、複数の《拘留の宝球》をバウンスして奇襲を仕掛けることもできます。
最初はバウンス呪文を4枚デッキに入れていましたが、1枚を抜いて代わりに《急速混成》にしました。バウンス呪文では《世界を喰らう者、ポルクラノス》に対して一時的な回避手段にしかなりません。この伝説のハイドラは、大体あなたが《波使い》を唱える時まで怪物化することはないでしょう。怪物化に対応して除去すればダメージを与えられないのでエレメンタルトークンは戦場に残り続けます。《急速混成》であれば、《世界を喰らう者、ポルクラノス》を永続的に対処できるのです。また覚えておいてほしいのは、このカードが緊急時のブロッククリーチャーを用意できること、その色は緑であることです。これは緑系のデッキが《霧裂きのハイドラ》を使ってきたときに特に有効です。《海の神、タッサ》を対象に打ち込んで、クリーチャーの数を減らすことなく3/3を追加することもできます。
4マナ域にどのカードを配置すべきかも議論を重ねました。私個人としては《タッサの二叉槍》は使いたくありませんでした。このカードはエスパー相手に限定された局面でしか強くなく、しかし時として、それ1枚でゲームに勝てるということもあります。UUという信心を供給すること、除去が困難なこと(←特に重要です)は素晴らしいですが、2枚目を引いてしまった時の弱さは半端ないものです。その点、《思考を築く者、ジェイス》はより簡単に対処されてしまいますが、ゲームに与える影響という点では軍配が上がります。エスパーとのマッチアップではサイドボード後に《思考を築く者、ジェイス》を4枚積みたかったので、スペースの都合の問題から《タッサの二叉槍》を減らしてメインボードに2枚《思考を築く者、ジェイス》を入れることにしたのです。
・土地
21《島》
3《変わり谷》
我々が単色にこだわったのはデッキを安定化させ一貫性のあるものにするためです。2色土地を見るたび、我々はこの問題に悩まされます(少なくとも私はそうです)。エスパーとの対戦を考えると是非とも《変わり谷》は入れておきたいところですが、一体何枚入れればよいのかなかなか決まりませんでした。3枚か、それとも4枚か。このデッキは青マナの要求が激しく、初手に無色マナしかないという事態は避けたかったので、メインボードは3枚だけ入れて1枚をサイドに落とすことにしました。
《ニクスの祭殿、ニクソス》を使わなかったのは、このカードの必要性を全く感じなかったためです。青単デッキというものはUUUUが用意できればもう十分で、それ以上の青マナを何のために使うのかわからなかったのです。《海の神、タッサ》で自軍のクリーチャーを全てブロックされなくする、という動きをとりたい時もありますが、それはミラーマッチの時のみに有効と考えていて、そして我々はミラーマッチに遭遇することがほとんどないと予想していたのです。
ところでひとつ疑問なのは、誰もインターネット上でこのデッキについて考察していなかったことです。何度か議論になりかけたことはありましたが、著名なプレーヤーが青単デッキの考察記事を公開することはありませんでした。本当のところ、我々も当初はこのデッキを馬鹿にしていたのですけれどね…
【サイドボーディングについて】
・対赤単
+2《漸増爆弾》、+2《思考を築く者、ジェイス》、+1《トリトンの戦術》
-1《タッサの二叉槍》、-2《サイクロンの裂け目》、-1《急速混成》、-1《海の神、タッサ》
対赤単戦は非常に楽なマッチアップです。あなたのクリーチャーがどれも脅威となるからです。特に《凍結燃焼の奇魔》と《前兆語り》は、防御に回って相手の攻撃を受け止めるには十分なタフネスを備えています。サイド後は《漸増爆弾》を追加することでもっと楽に立ち回れるようになります。《トリトンの戦術》を使って《潮縛りの魔道士》を除去から守ることで、相手の計算を狂わせることもできます。
・対グルール
+3《霜の壁》、+1《真髄の針》、+1《トリトンの戦術》
-1《タッサの二叉槍》、-4《審判官の使い魔》
赤緑デッキにとって《波使い》を対処できるカードは、《世界を喰らう者、ポルクラノス》と《ミジウムの迫撃砲》しかありません。《霜の壁》は巨大な壁となってグルールの怪物の前に立ち塞がり、ゲームを長期化させる手助けとなることでしょう。《真髄の針》は《世界を喰らう者、ポルクラノス》や《ドムリ・ラーデ》を封じ、《トリトンの戦術》は《世界を喰らう者、ポルクラノス》から《波使い》を守ってくれます。
・対セレズニア
+3《霜の壁》、+2《漸増爆弾》
-1《タッサの二叉槍》、-2《思考を築く者、ジェイス》、-2《前兆語り》
これもまた《森》が入っているデッキの例外に漏れずとても簡単なマッチアップで、もしかすると最も倒しやすい相手かもしれません。《潮縛りの魔道士》を除去される心配がないからです。《海の神、タッサ》を除去できる《セレズニアの魔除け》を抱えてはいますが、逆に言うとそれだけしかセレズニアが有利な点はありません。サイド後は《霜の壁》が《ロクソドンの強打者》、《羊毛鬣のライオン》、ワームトークンの攻撃を受け止め、《漸増爆弾》がワームトークンの居住を防ぐとともに《霜裂きのハイドラ》への回答となるでしょう。カウンターを1つ乗せておくだけで、たとえ10/10のハイドラであっても破壊できます。
・対エスパーコントロール
+2《霊異種》、+3《否認》、+1《真髄の針》、+2《思考を築く者、ジェイス》、+1《変わり谷》
-4《雲ヒレの猛禽》、-2《前兆語り》、-2《波使い》、-1《急速混成》
エスパーとの試合は難しい展開になるでしょう。前述の通り、適切なサイドボードプランの発見のために我々は苦労しました。サイド後は《思考を築く者、ジェイス》が4枚になる分デッキ全体はやや重くなります。《スフィンクスの啓示》など重要な呪文を打ち消せるように《否認》を入れ、追加の土地として4枚目の《変わり谷》も入れます。
《霊異種》は、デッキに入れるべきかどうかでチーム内で最も揉めたカードです。Pierreはこのカードを、今回のデッキで運用するには重過ぎて唱えられないだろうと考えていました。私は彼に、それは違うだろうと反論しました。なぜなら、対エスパー戦ではどうしてもゲームは長期化しやすく、5枚目以降の土地を死に札にさせない必要があると危惧していたからです。またサイド後には《思考を築く者、ジェイス》と《変わり谷》が追加されるというのも、反論した理由の一つです。
結局Pierreは《記憶の熟達者、ジェイス》を代わりに採用することにしました。チームの中でも何枚が適正枚数かで意見が割れていて、1枚にとどめる者がいる一方で、私とJeremy、Melissa、Yann、そしてMiguelのように、2枚にした者もいました。もしかしたら他にもいたかもしれませんが、全員の最終リストを全部覚えていないのでわかりません。
《霊異種》が対オロスコントロールなどの中速デッキを相手にしたときにものすごく強いことから、私はこのカードを心底気に入りました。オロスコントロールとの試合では除去呪文が降り注ぐために《海の神、タッサ》で攻撃できる機会がなく、非常に不利なマッチアップです。《破滅の刃》、《岩への繋ぎ止め》、《神々の憤怒》で《波使い》が対処され、《先導者のらせん》は《夜帷の死霊》を撃墜し、これらのためにオロス側が圧倒的な優位に立つでしょう。その間にも《ボロスの反抗者》を始めとした軍勢があなたを攻撃し続け、しかもそれらを迎撃することは非常に困難です。
私の3つの負けのうち2つはオロスコントロールとの試合でした。PierreはTop 8に残る過程で何回かこのマッチに勝利したと言っていますが、私にはどうすれば勝てるのか全く分かりません。おそらく1マナ域のクリーチャーを全部抜いて《思考を築く者、ジェイス》や《霊異種》などをサイドインし、コントロールプランにシフトすることになるのでしょうが。もう一つの負けはUri Pelegとの試合で、彼はエスパーを使っていました。彼と全く同じリストを使っているWafo-Tapaと、プロツアー前にあれだけ練習したのに…(´・ω・`)
LouisとWafo-Tapaはエスパーを、Robはセレズニアをそれぞれ選択し、他は全員が青単信心デッキに決めました。ここまで多くのメンバーが同じデッキを共有することは非常に稀です。我々は一つの大仕事を成し遂げ、今回の結果に大満足しています。13人のメンバーのうち12人が2日目に進出し、7人がマネーフィニッシュして、3人がTop 8に残ったのですから。
ところでGuillaume Wafo-Tapaについて、ここで言っておかなければならないことがあります。
1) Wafo-Tapaはエスパーを選択しましたが、彼は決して他のデッキを使おうとはしませんでした。ダブリンに滞在している間に、彼にこう尋ねたことを覚えています。
「すまないが今回は、君のデッキの調整に時間を割けそうもないよ(だってLouis以外の全員が、エスパーを選択する気がなかったのですから)。ところで君はどうして他のデッキを使おうとしないんだい?」
彼の回答は非常に興味深いものでした。
「エスパーというデッキは環境への適合と、正解を見つけ出す作業そのものなんだよ。きっとプロツアーの直前まで正解に辿り着くことはできないだろう。しかしたとえ不本意であっても、君達が僕に付き合ってくれたなら、その時こそパーフェクトなエスパーに辿り着くことができるはずだ」
2) 調整中に出た結論を再考するというのは奇妙なものです。調整の過程で、《タッサの二叉槍》がほとんどのマッチアップにおいて苛立たしさをおぼえるようなカードであることは明白でした。実際、エスパー以外の相手には必ずサイドアウトしていました。チームメンバーのほとんどがそれを1枚に減らしていましたが、Pierreだけは2枚目を残していました。準々決勝の時、Wafo-Tapaが唱えた《思考囲い》によって、Pierreは次のような手札を公開したのです。
2《夜帷の死霊》 2《タッサの二叉槍》 2《島》
この中からWafo-Tapaは《夜帷の死霊》を抜き取ったのですが、結論から言うと彼は《タッサの二叉槍》のためにこのゲームを落とすことになるのです。試合後にWafo-Tapaは、《タッサの二叉槍》を捨てさせるべきだったと後悔していました。この時私は己の過ちに気づかされました。調整中ずっと《タッサの二叉槍》が弱い状況ばかりを私が想定していたことが影響し、Wafo-Tapa もまた《タッサの二叉槍》をPierreの手札に残す選択をしてしまったのでしょう。事実、彼もそうだと認めました。
3) プロツアーが終わった後のパーティーで、Wafo-Tapaのことを褒めていたPatrick Chapinと話す機会がありました。彼曰くWafo-Tapaはアーティストで、使っていたエスパーデッキは環境のマスターピースだったそうです。彼は今回で通算5回目のプロツアーTop 8入賞を達成しましたが、その一方で彼は数年前にある大きな過ちを犯しています。今年から彼も殿堂候補者の資格を得ることになったので、彼が選出されるよう私はロビー活動に全力で励むつもりです。
ところで先程の会話の中で、Chapinはこうも言っていました。
「おかしいとは思わないか?Nassifはフランス人だが、チームSCGの一員であって青単を選択し、そして同じくフランス人の君のデッキも同じように青単だった」
彼はつまり、私がNassifから情報を提供されたのではないかと疑っていたわけです。そこで私はこう返しました。
「君こそおかしいと思わないのか?君達のチームは青単デッキに辿り着いていたわけだけど、俺達のチームメイトであるWafo-Tapaを君は贔屓にしているんだぜ?」
実際のところSCGと我々の間に接点はなかったのですが、異なるチームがほとんど同じデッキリストに辿り着くなんて何てクールな話なんでしょう。
同じデッキを使ったチームメイトがワンツーフィニッシュする一方で、私は40位という、決して好成績とは言えない結果に甘んじたわけですが、後悔はありません。デッキ調整の間もJeremyとPierreは非常に熱心に練習していましたし、ドラフトの成績も素晴らしいものでしたので、今回の結果も驚くほどではないのです。
今回の結果には非常に満足していますし、JeremyとPierreのことをまだまだ祝福し足りないぐらいです。
果たしてトーナメントの期間中にPierreの役に立ったかは分かりませんが、実は彼にはあるものを渡していました。私はMtGの大会に参加するときは、気に入る音楽や、やる気を出させてくれる音楽、迷った時に道しるべとなってくれるような音楽を探すようにしています。隣席のプレーヤー、アナウンス、対戦相手の遅いプレイなど、試合中に集中を乱す要素はたくさんあります。そんな時は私は音楽を念仏のように聞いて、意識をゲームへと引き戻し、頭の中で歌を歌い続けます。いつでもできる、とても簡単な頭の体操にもなりますよ。
出発の数日前、私はある柔術の大会の再放送で、(私が大好きな)ロッキーシリーズに出てくる歌のような音楽が流れているのを耳にしました。その曲を調べたところ、Stalloneの出演作である「Over the Top」のサントラであることが分かりました。Sammy Hagarの「Winner Takes It All」です。どうして今までの人生で私はこの曲と出会えなかったのでしょうか!?実にすばらしい曲で、聴いているだけで試合に勝てそうな気がしてきます。私はこの80年代の名曲をPierre Dagenにも教えてあげました。そして彼は、プロツアーの舞台でまさにこの歌そのものになったのです。
これで今回の記事はおしまいです。
このプロツアーのためにカードをお貸し頂いたCardhausには大変感謝しています。
次回お会いする舞台はグランプリ・アントウェルペン、フォーマットは(私の大嫌いな)モダンです。
See you next time!
コメント
翻訳乙です。
ありがとうございます